在留特別許可とは?
在留特別許可というのは、日本から退去強制され出国することを前提とした手続きの一環で行われる特例的な措置のことです。言い換えれば、不法滞在やオーバーステーなどで退去強制事由に該当し、本来であれば日本から退去強制させなければならない者を、様々な事情を考慮して例外的に日本での在留を認めるのが在留特別許可です。
在留特別許可を受けるには、退去強制手続きを受けなければなりませんので、結果的に在留特別許可が認められなければ、当然に退去強制令書が発行され、日本から出国しなければなりません。最終的にこの決定は法務大臣で、入管法の第五十条には次のように記載されています。
第五十条 (法務大臣の裁決の特例)法務大臣は、前条第三項の裁決に当たって、異議の申し出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一 永住許可を受けているとき。
ニ かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。 2 前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留期間その他必要と認める条件を附することができる。
3 第一項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出に理由がある旨の裁決とみなす。
本来であれば、異議の申し出に理由があるかどうかが裁決され、理由がないと判断された場合は日本で滞在する事はできず退去強制されることになります。しかし、例外的に法務大臣は異議の申し出に理由がない場合でも特別な事情があると認めた時は、在留を特別に認めることができます。このように法務大臣が在留特別許可を与えた場合には、主任審査官はただちに容疑者を放免することになります。
ただし、在留特別許可は法務大臣の例外的な恩恵的措置であるため自由裁量による問題とされており、法律上では在留特別許可を外国人本人が申請する権利は無いものとされています。申請する権利がなければ、申請する手段が存在しないことになります。以前は入国管理局などで在留特別許可について問い合わせをしても、場合によっては「そんな申請はありません。」と対応されることもありました。
あくまでも在留特別許可を申請するためには退去強制手続きの申請をすることになります。また、最終的に法務大臣が「在留特別許可」を与えなかったとしても、その判断が自由裁量である以上、与えなかったこと自体が違法となる事は原則としてありえません。
もちろん、その決定が不当であるかどうかと言う問題は残りますが、前述したとおり国際法上の一般原則にあるとおり、どのような外国人の滞在を許可するかは主権国家の自由であり、外国人本人から在留を求める事を要求する権利はないとされているため、在留特別許可を申請する外国人の立場は非常に弱いものとなります。
在留特別許可ガイドライン
2007年6月に入国管理局から「在留特別許可のガイドライン」が発表されました。
在留特別活動に関する2つの案件
在宅案件
「在宅案件」は、日本人と婚姻した外国人や日本人の子を持つ外国人が自ら入国管理局に出頭し、在留特別許可を申請するケースです。この場合は、よほどの事情がない限り入国管理局に収容されるケースはほとんどなく、最終的に在留特別許可がおり正規のビザ(在留資格)がもらえるケースが多く見られます。
ただし、初回の入国管理局出頭時に内容が疑わしい案件の場合はあえて収容せず、その後に警備官が内密に調査を行い次回の呼び出し時に証拠をそろえてから収容するケースもあります。また初回に出頭した後も、すぐに正規のビザ(在留資格)がもらえるわけではありません。出頭をしても正規の在留資格(ビザ)がもらえるまでは不法滞在のままであるため、状況によっては職務質問などをうけて警察に逮捕されることも十分にありえます。その場合には警察の対応にもよりますが、原則として以下の収容案件と似た手続きを取る事になります。
収容案件
「収容案件」とは、不法滞在などで警察や入国管理局に逮捕・収容されてから在留特別許可を申請するケースなどのことです。
逮捕された時点で既に日本人と婚姻していた場合などは、収容後に在留特別許可を申請しても許可がもらえるケースがあります。しかし、自主出頭した場合に比べると“素行の善良性”などの見地から許可がもらえる可能性が低下することが多いです。また、通常は仮放免手続きも同時に行いますが、このケースでは仮放免が許可されることは少なく身柄を収容したままの状態で調査を進め、法務大臣が最終的な判断を行うケースがほとんどです。
一方、逮捕された時点で婚姻していなかった場合、状況はかなり厳しくなります。入国管理局へ収容後に婚約者などが婚姻届を提出して急いで在留特別許可を申請するケースもありますが、これは“駆け込み婚”と呼ばれ、婚姻の“信憑性”や“在留の必要性”などの観点から問題視されます。以前はこのような申請でも婚姻が真正であれば認められるケースもありましたが、現在の判断基準ではよほどの客観的な証拠などがなければなかなか許可には至りません。また、逮捕されたときに不法滞在以外の罪、例えば窃盗、売春、薬物使用などで摘発された場合には、在留特別許可の取得はさらに困難になります。裁判の結果、執行猶予が付く程度であれば低いなりに可能性はありますが、実刑の判決などが出た場合には、在留特別許可を申請しても日本での在留を許可されることは難しいです。ただし、人身取引などに伴う売春の場合であれば2006年7月に「人身取引等の被害者に関する上陸特別許可事由及び在留特別許可事由の改正」が行われたため、婚姻などの要件がなくても在留特別許可が認められる可能性があります。
在留特別許可が認められ得る類型
在留特別許可は、外国人の在留に係る積極要素が消極要素を上回る場合に認められ得るものです。現在、在留特別許可が認められる可能性が高い類型として以下の7つの類型がありますが、この7つ以外の類型でも認められる可能性がないわけではありません。しかし、許可のハードルはかなり高くなります。また、認められる可能性が高い7つの類型に該当したとしても必ずしも許可され得るとは限りません。従って、以下の7つの類型は許可されるための最低条件として認識しておくことが必要です。
【認められる可能性が高い7つの類型】
- もと日本国籍で、本籍を有していた者
- 日本人、特別永住者、永住者、定住者と法的に婚姻が成立しており、婚姻信憑性の立証が十分になされている場合
- 日本人の実子(日本国籍の有無は問わない)を親権をもって監護養育する者
- 日本で生まれた(あるいは幼少時に来日した)おおむね10歳以上(特別審理官による判定時)の実子が同居・監護養育され、日本の学校に通学している、おおむね10年程度以上日本に在留してきた外国人一家が出頭申告した場合で入管法以外の法違反(軽微なものを除く。)がない場合
- 日本人の実子あるいは日系人(2世、3世、4世)であり、本来、定住者告示等に該当するため「日本人の配偶者等」又は「定住者」の在留資格を取得し得る地位にある者
- 特別永住者の実子
- 本国での治療が不可能な難病等を抱えており、日本での治療が必要不可欠である者又はこのような治療を要する親族を看護することが必要不可欠である者
在留特別許可申請の必要書類
在留特別許可申請の必要書類は次の通りです。婚姻事案を想定して列挙しますが、これらに限るものではなく、事案ごとに必要書類の要否は検討が必要です。
- 申告書(各地方入国管理局により書式が異なります。)
- 陳述書(各地方入国管理局により書式が異なります。)
- 在留特別許可願出書(書式自由)
- 交際経緯・生活状況等説明書(書式自由)及びその立証資料
- 反省文
- 嘆願書
- 旅券、本国政府発行の出生証明書等身分関係書類
- 身元保証書
- 婚姻の事実を証する書類
- 世帯全員の記載のある住民票の写し(発行日から3ケ月以内のもの)
- 配偶者の履歴書
- 預貯金通帳の写し又は預貯金残高証明書(申告者、配偶者とも)
- 配偶者の在職証明書
- 住民税の課税証明書・納税証明書
- 同居している住居の賃貸借契約書(自己所有の場合は不動産登記事項証明書)
- 妊娠している場合は、母子健康手帳写し
- 子がいる場合は、子の在学証明書、出席・成績証明書
- 仮放免許可申請書(身柄を収容されている場合)
- 写真(縦5㎝×横5㎝。4枚。出頭申告前6か月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明なもの)
退去強制
「退去強制」とは日本が好ましくないと認める外国人を行政手続により日本の領域外に強制的に退去させることを指します。「出入国管理及び難民認定法」第24条では日本社会において強制的に退去させるべき者を事由ごとに列挙しています。
出国命令制度
出国命令制度とは、2004年の入管法改正に伴い設立された制度で、日本に滞在する不法残留者に自主的に出頭させ出国させるための措置です。一定の条件を満たし、自ら出頭した不法残留者は身柄を収容されることなく日本から出国することが可能となり、通常、帰国後は入国拒否期間が5年間以上(場合によっては10年間)となるところを1年間に軽減されます。
退去強制手続きにおける在留特別許可及び出国命令手続き
退去強制手続きにおける在留特別許可及び出国手続きは、原則として以下のような流れで進むことになります。
退去強制手続の第一段階は、入国警備官が行う違反調査です。これは退去強制事由に該当すると思われる外国人に対して、入国、上陸または在留に関する違反事件を調査することであり、違反事実の有無を明らかにするための活動です。違反調査を行うに至るケースとしては、第三者からの通報や容疑者本人の申告、それに入国警備官が実際に現場で確認した場合などであり、違反調査を実行するためには退去強制事由に該当すると推測させる程度の資料があれば十分とされています。
入管法第二十八条(違反調査について必要な取調べ及び報告の要求)では、入国警備官は違反調査を行うために必要な取調べをする事ができるとされており、その調査方法は任意調査と強制調査に分けられます。通常は任意調査が原則で、任意に提出された陳述書や証拠書類を領置するような場合が該当します。一方、強制調査は処分を受ける外国人の意思に関わらず直接に公的強制力を加えて調査をする方法で、入管法第三十九条(収容)、及び第四十三条(要急事件)による身柄の収容などが該当します。
そして、違反調査の結果、退去強制に該当する客観的かつ合理的な根拠がある場合には、入国警備官は収容令書によりその外国人を収容することとなります。この収容は法律で明文化されている訳ではないが、現在の法解釈では退去強制手続きを進めるにあたっては容疑者をすべて収容する「収容前置主義」がとられているため、原則として退去強制事由に該当する外国人はそのすべてが収容されることになります。
このようにして収容された場合の収容期間は30日以内とされていますが、やむを得ない事由がある時にはさらに30日延長する事が出来るとされているため、収容令書により外国人を収容した場合には最長で60日間の収容が可能となります。そして、このようにして外国人を収容した場合には、入国警備官から入国審査官へと身柄が引き渡されることになります。 以上のように入国審査官へと身柄が引き渡されると、退去強制手続の第二段階と言える違反審査が行われます。入国審査官は入国警備官から引き渡された調書や証拠物に基づき、その外国人が退去強制事由に該当しているか、さらに出国命令対象者に該当しないかを審査することになります。
審査の結果、入国審査官は退去強制事由に該当しないこと等が明らかになれば、すぐにその外国人を放免しなければなりません。しかし、退去強制事由に該当すると認定した場合には、入国審査官はその外国人に対して口頭審理の請求ができる旨を知らせた上で、審査の結果を書面で伝えることになります。その外国人が口頭審理放棄書に署名するなどの「口頭審理の請求をしない」旨の意思表示をした場合には、速やかに退去強制令書を発布することにより退去強制手続がとられます。一方、その外国人が入国審査官による通知を受けた日から3日以内に口頭審理の請求をした場合には、特別審理官による口頭審理が行われることとなります。
口頭審理は退去強制手続の第三段階とも言え、前段階の入国審査官が行った「退去強制事由に該当する」という認定に誤りがないかを再検討するものです。審理の結果、入国審査官の認定に誤りがある、つまり「退去強制事由に該当しない」となればその外国人はただちに放免されることとなります。しかし、認定に誤りがないと判定した場合は、特別審理官はその外国人に対して異議の申し出ができる旨を知らせた上で、判定の結果を伝えることになります。
前段階と同様に、通知を受けた外国人は3日以内に法務大臣に対して異議申し出をすることができます。これが退去強制手続の最終段階とも言うべきもので、法務大臣が異議の申し出に理由があるかどうかを採決することになります。異議の申し出には「不服の理由を示す資料」を提出しなければならないとされており、その内容としては以下のような理由が規定されています。
①審査手続きに法令の違反がある
②法令の適用に誤りがある
③事実の誤認がある
④退去強制が著しく不当である
申し出に理由が認められれば、つまり、①~④のどれかに該当すると認められればその外国人はただちに放免されることになり、逆に異議に理由が認められなければ退去強制令書が発布されることになります。ただし、このように法務大臣が異議の申し出に理由がないと判断した場合でも、以下のような場合には在留を特別に許可することができるとされています。
①永住許可を受けているとき
②かつて日本国民として日本に本籍を有したことがあるとき
③人身取引などにより他人の支配下に置かれて日本に在留するものであるとき
④その他、法務大臣が特別に在留が許可されるべき事情があると認めるとき
これが在留特別許可と呼ばれるものであり、国際結婚に関連して在留特別許可が出される場合には、その大半が④の理由に該当するものと思われます。在留特別許可はこのような退去強制手続きに基づき行われ、法務大臣の裁決の特例として付与されます。
以上の手続きを簡単にまとめると、退去強制手続きを行った場合、通常は外国人に対して3回の弁解の機会が与えられます。1回目が入国審査官による違反審査、2回目が特別審理官による口頭審査、そして、3回目が法務大臣が行う異議申し立ての採決です。それぞれの過程における基本的な流れは、①調査⇒②判定⇒③不服申し立て、を3回繰り返して、最終的に在留特別許可かどうかが決定されます。そのため1回目や2回目の途中の段階で、仮にも外国人本人が「判定に間違いありません。次の不服申し立てはしません。」という書類に署名した場合には、すぐに退去強制令書が発行され日本から出国することになるため注意が必要です。ここでは退去強制手続きについて概略的な説明をしましたが、あくまでも一般的な説明です。最近では案件の内容に応じて一部の手続きを簡略化するケースもあるため、必ずこのとおりの手続きが行われるとは限りません。