退去強制とは
「退去強制」とは日本が好ましくないと認める外国人を行政手続により日本の領域外に強制的に退去させることを指します。「出入国管理及び難民認定法」第24条では日本社会において強制的に退去させるべき者を事由ごとに列挙しています。
この退去強制事由の判断はその外国人の違反事実についての故意または過失の有無は要件とされないと言う点では、刑罰とは異なります。また、退去強制は日本に在留するすべての外国人が対象となるわけではなく、外交官や領事官、駐日アメリカ軍などは別の方法により出国させることになります。
退去強制事由は出入国管理及び難民認定法24条で規定されています。
出入国管理及び難民認定法24条
(退去強制)
- 1号 【不法入国者】第3条の規定に違反して本邦に入った者
- 2号 【不法上陸者】入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者
- 2号の2 【在留資格を取り消された者】第22条の4第1項(第1号又は第2号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者
- 2号の3 【在留資格を取り消された者】第22条の4第1項(第5号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者(同条第7項本文の規定により期間の指定を受けた者を除く。)
- 2号の4 【在留資格取消しに係る出国期間経過】第22条の4第7項本文(第61条の2の8第2項において準用する場合を含む。)の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間を経過して本邦に在留するもの
- 3号 【偽変造虚偽文書行使等】他の外国人に不正に前章第1節若しくは第2節の規定による証明書の交付、上陸許可の証印(第9条第4項の規定による記録を含む。)若しくは許可、同章第4節の規定による上陸の許可又はこの章の第1節若しくは次節第3節の規定による許可を受けさせる目的で、文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、若しくは偽造若しくは変造された文書若しくは図画若しくは虚偽の文書若しくは図画を行使し、所持し、若しくは提供し、又はこれらの行為を唆し、若しくはこれを助けた者
- 3号の2 【公衆等脅迫目的の犯罪行為等】公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律第1条の規定する公衆等脅迫目的の犯罪行為(以下この号において「公衆等脅迫目的の犯罪行為」という。)、公衆等脅迫目的の犯罪行為の予備行為又は公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大臣が認定する者
- 3号の3 【国際約束】国際約束により本邦への入国を防止すべきものとされている者
- 3号の4 【不法就労助長行為、教唆、幇助】次のイからハまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者
イ 事業活動に関し、外国人に不法就労活動(第19条第1項の規定に違反する活動又は第70条第1項第1号、第2号、第3号から第3号の3まで、第5号、第7号から第7号の3まで若しくは第8号の2から第8号の4までに掲げる者が行う活動であって報酬その他の収入を伴うものをいう。以下同じ。)をさせること。
ロ 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと。
ハ 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又はロに規定する行為に関しあっせんすること。 - 3号の5 【在留カード等の偽変造等】次のイからニまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者
イ 行使の目的で、在留カード若しくは日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法第7条第1項に規定する特別永住者証明書(以下単に「特別永住者証明書」という。)を偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書を提供し、収受し、若しくは所持すること。
ロ 行使の目的で、他人名義の在留カード若しくは特別永住者証明書を提供し、収受し、若しくは所持し、又は自己名義の在留カードを提供すること。
ハ 偽造若しくは変造の在留カード若しくは特別永住者証明書又は他人名義の在留カード若しくは特別永住者証明書を行使すること。
ニ 在留カード若しくは特別永住者証明書の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備すること。 - 4号 本邦に在留する外国人(仮上陸の許可、寄港地上陸の許可、船舶観光上陸の許可、通過上陸の許可、乗員上陸の許可又は遭難による上陸の許可を受けた者を除く。)で次のイからヨまでに掲げる者のいずれかに該当するもの
イ 【専従資格外活動者】第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者
ロ 【不法残留者】在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(第20条第5項の規定により本邦に在留することができる期間を含む。第26条第1項及び第26条の2第2項(第26条の3第2項において準用する場合を含む。)において同じ。)を経過して本邦に残留する者
ハ 【人身取引等加害者】人身取引等を行い、唆し、又はこれを助けた者
ニ 【旅券法違反者】旅券法第23条第1項(第6号を除く。)から第3項までの罪により刑に処せられた者
ホ 【集団密航に係る罪違反者】第74条から第74条の6の3まで又は第74条の8の罪により刑に処せられた者
ヘ 【非専従資格外活動者】第73条の罪により禁錮以上の刑に処せられた者
ト 【少年法違反者】少年法に規定する少年で昭和26年11月1日以後に長期3年を超える懲役又は禁錮に処せられたもの
チ 【規制薬物違反者】昭和26年11月1日以後に麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚せい剤取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律又は刑法第2編第14章の規定に違反して有罪の判決を受けた者
リ 【刑罰法令違反者】ニからチまでに掲げる者のほか、昭和26年11月1日以後に無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者及び刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者であってその刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間が1年以下のものを除く。
ヌ 【売春関係者・売春関係業務従事者】売春又はその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事する者(人身取引等により他人の支配下に置かれている者を除く。)
ル 【不法入国幇助者・不法上陸幇助者・在留資格等不正取得幇助者】次に掲げる行為をあおり、唆し、又は助けた者
⑴ 他の外国人が不法に本邦に入り、又は上陸すること。
⑵ 他の外国人が偽りその他不正の手段により、上陸の許可等を受けて本邦に上陸し、又は前節の規定による許可を受けること。
オ 【暴力主義的破壊活動者(国家秩序破壊)】日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入している者
ワ 【暴力主義的破壊活動者(公の秩序かく乱)】次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又はこれと密接な関係を有する者
⑴ 公務員であるという理由により、公務員に暴行を加え、又は公務員を殺傷することを勧奨する政党その他の団体
⑵ 公共の施設を不法に損傷し、又は破壊することを勧奨する政党その他の団体
⑶ 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又は妨げるような争議行為を勧奨する政党その他の団体
カ 【暴力主義的破壊活動者(頒布)】オ又はワに規定する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成し、頒布し、又は展示した者
ヨ 【利益公安条項該当者】イからカまでに掲げる者のほか、法務大臣が日本国の利益又は公安を害する行為を行ったと認定する者 - 4号の2 【刑罰法令違反者の特例】別表第1の上欄の在留資格をもって在留する者で、刑法第2編第12章、第16章から第19章まで、第23章、第26章、第27章、第31章、第33章、第36章、第37章若しくは第39章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第1条、第1条ノ2若しくは第1条ノ3(刑法第222条又は第261条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪又は特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第15条若しくは第16条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条若しくは第6条第1項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの
- 4号の3 【国際競技会等関連不法行為】短期滞在の在留資格をもって在留する者で、本邦において行われる国際競技会等の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもって、当該国際競技会等の開催場所又はその所在する市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法第252条の19第1項の指定都市にあっては、区)の区域内若しくはその近傍の不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、不法に、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊したもの
- 4号の4 【虚偽届出罪等違反者】中長期在留者で、第71条の2又は第75条の2の罪により懲役に処せられたもの
- 5号 【仮上陸条件違反者】仮上陸の許可を受けた者で、第13条第3項の規定に基づき付された条件に違反して、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出しに応じない者
- 5号の2 【退去命令違反者】第10条第7項若しくは第11項又は第11条第6項の規定により退去を命ぜられた者で、遅滞なく本邦から退去しないもの
- 6号 【特例上陸許可に係る不法残留者】寄港地上陸の許可、船舶観光上陸の許可、通貨上陸の許可、乗員上陸の許可、緊急上陸の許可、遭難による上陸の許可又は一時庇護のための上陸の許可を受けた者で、旅券又は当該許可書に記載された期間を経過して本邦に残留するもの
- 6号の2 【船舶観光上陸許可に係る不法残留者(出航前帰船条件違反逃亡者】船舶観光上陸の許可を受けた者で、当該許可に係る指定旅客船が寄港する本邦の出入国港において下船した後当該出入国港から当該指定旅客船が出港するまでの間に帰船することなく逃亡したもの
- 6号の3 【数次船舶観光上陸許可取消しに係る出国期間経過】第14条の2第9項の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間内に出国しないもの
- 6号の4 【数次乗員上陸許可取消しに係る出国期間経過】第16条第9項の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間内に帰船し又は出国しないもの
- 7号 【不法残留者】第22条の2第1項に規定する者で、同条第3項において準用する第20条第3項及び第4項の規定又は第22条に2第4項において準用する第22条第2項及び第3項の規定による許可を受けないで、第22条の2第1項に規定する期間を経過して本邦に残留するもの
- 8号 【不法残留者】第55条の3第1項の規定により出国命令を受けた者で、当該出国命令に係る出国期限を経過して本邦に残留するもの
- 9号 【出国命令を取り消された者】第55条の6の規定により出国命令を取り消された者
- 10号 【難民認定を取り消されたもの】第61条の2の2第1項若しくは第2項又は第61条の2の3の許可を受けて在留する者で、第61条の2の7第1項(第1号又は第3号に係るものに限る。)の規定により難民の認定を取り消されたもの
上記のように退去強制に該当する1~10までの事由が列挙されていますが、以下のような事例が代表的なものになります。
(1)不法入国者
有効なパスポートなどを持たずに日本に入国した人が該当します。上陸許可などを受けることなく日本に上陸する目的をもつ外国人については、例え有効なパスポートなどを所持していたとしても、日本に入れば不法入国となります。また、他人のパスポートを使って入国した場合や、写真の貼り替え、氏名や生年月日の改ざんなどによる偽造パスポートによる入国も不法入国に該当します。
(2)不法上陸者
手段や方法は問わずに、上陸の許可などを受けることなく日本に上陸した者が該当します。不法上陸者は大きく2つにわけることができます。1つは上陸許可の証印や記録を受けないで日本に上陸した者、2つ目は寄港地上陸や通過上陸などの特例上陸許可を受けなければならない状況にも関わらず、これを受けないで入国した者となっています。最近では少なくなりましたが、コンテナ船や漁船などでの密航などが該当します。
(3)偽造・変造文書を作成・提供した者
不正に上陸や在留のために、組織的・専門的に偽物のパスポートや書類の作成したり提供した者を指し、外国人ブローカーなどを日本から退去強制することを目的としています。なお、偽造文書作成や提供だけでなく、それを手助けした者も含まれます。
(4)資格外活動者
「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動」などを行い、在留資格で定められた活動以外のことを行なっている者を指します。外国人留学生が学校に通うことなく本格的に就労している場合や、「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザを持つ者が許可なく、深夜にアルバイトをしている場合などは資格外活動に該当することがあります。
(5)不法残留者(オーバーステイ)
在留期間の更新又は変更せずに、在留期限をすぎて滞在している人が該当します。「日本人の配偶者等」の在留資格で日本人と離婚した後に何ら手続きをせずに在留期限が経過してしまった場合や、観光や親族訪問の目的で「短期滞在」で入国後にそのまま在留期限が経過してしまった場合などが該当します。
(6)刑罰法令の違反者
住居を犯す罪、通貨偽造の罪、文書偽造の罪、有価証券の偽造の罪、支払い用カードの電磁的記録に関する罪、印象偽造の罪、賭博及び富くじに関する罪、殺人の罪、傷害の罪、逮捕及び監禁の罪、脅迫の罪、略取、誘拐及び人身売買の罪窃盗及び強盗の罪、詐欺及び恐喝の罪、盗品等に関する罪などにより懲役または禁錮に処せられた者が該当します。
(7)売春関係業務の従事者
売春関係の業務に従事したという事実があれば該当し、売春防止法などに違反して刑に処せられたかどうかは要件とされません。ただし、人身取引等により売春などの業務に従事させられた被害者は退去強制の対象から除外されます。
(8)退去命令違反者
退去命令を受けたにも関わらず日本から退去しない者であり、出向命令制度などにより既に退去命令が出ているにも関わらずそのまま日本に居続けた場合などが該当します。上記のような要件に該当する人は原則、その全員が退去強制手続きを受け日本から出国しなければなりません。また、どのような者を入国拒否し、または退去強制させるかの判断は国際法上の一般原則として各国の裁量権に任されているのが現状です。
退去強制手続
在留特別許可は退去強制手続の中で行われます。大きな流れでいうと、出頭申告(入管・警察による摘発)後、入国警備官による違反審査が行われ、退去強制事由に該当すると判断されれば、入国審査官に引渡され、入国審査官による違反審査⇒特別審理官による口頭審理⇒法務大臣の裁決へと進み、いわゆる三審制となっています。
- 出頭申告(入管・警察による摘発)
- 入国警備官による違反審査
- 入国審査官による違反審査
- 特別審理官による口頭審理
- 法務大臣による裁決(在留特別許可or退去強制)