入国拒否期間及び上陸特別許可
日本国内で退去強制手続にともなう在留特別許可を希望したにも関わらず、許可されなかった場合は退去強制令書に基づき本国などへ送還されることになります。このようなケースでは「日本人の配偶者等」や「家族滞在」、「永住者の配偶者等」などの在留資格認定証明書の交付申請を行うことになりますが、そこで問題となるのが日本への入国拒否期間です。退去強制された外国人は、原則としてその後5年間(場合によっては10年間)は入国拒否期間に該当するため、その期間は日本へ入国をすることはできません。
入管法第5条では日本への上陸許可の消極要件を定め、上陸を禁止するべき外国人を事由別の列挙しています。(上陸の拒否)
第五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
一 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (平成十年法律第百十四号)に定める一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症(同法第七条 の規定に基づき、政令で定めるところにより、同法第十九条 又は第二十条 の規定を準用するものに限る。)の患者(同法第八条 (同法第七条 において準用する場合を含む。)の規定により一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症又は指定感染症の患者とみなされる者を含む。)又は新感染症の所見がある者
二 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又はその能力が著しく不十分な者で、本邦におけるその活動又は行動を補助する者として法務省令で定めるものが随伴しないもの
三 貧困者、放浪者等で生活上国又は地方公共団体の負担となるおそれのある者
四 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。
五 麻薬、大麻、あへん、覚せい剤又は向精神薬の取締りに関する日本国又は日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられたことのある者
五の二 国際的規模若しくはこれに準ずる規模で開催される競技会若しくは国際的規模で開催される会議(以下「国際競技会等」という。)の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもつて、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊したことにより、日本国若しくは日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられ、又は出入国管理及び難民認定法の規定により本邦からの退去を強制され、若しくは日本国以外の国の法令の規定によりその国から退去させられた者であつて、本邦において行われる国際競技会等の経過若しくは結果に関連して、又はその円滑な実施を妨げる目的をもつて、当該国際競技会等の開催場所又はその所在する市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項 の指定都市にあつては、区)の区域内若しくはその近傍の不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、人を殺傷し、人に暴行を加え、人を脅迫し、又は建造物その他の物を損壊するおそれのあるもの
六 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に定める麻薬若しくは向精神薬、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に定める大麻、あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)に定めるけし、あへん若しくはけしがら、覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に定める覚せい剤若しくは覚せい剤原料又はあへん煙を吸食する器具を不法に所持する者
七 売春又はその周旋、勧誘、その場所の提供その他売春に直接に関係がある業務に従事したことのある者(人身取引等により他人の支配下に置かれていた者が当該業務に従事した場合を除く。)
七の二 人身取引等を行い、唆し、又はこれを助けた者
八 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)に定める銃砲若しくは刀剣類又は火薬類取締法 (昭和二十五年法律第百四十九号)に定める火薬類を不法に所持する者
九 次のイからニまでに掲げる者で、それぞれ当該イからニまでに定める期間を経過していないもの
イ 第六号又は前号の規定に該当して上陸を拒否された者 拒否された日から一年
ロ 第二十四条各号(第四号オからヨまで及び第四号の三を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者で、その退去の日前に本邦からの退去を強制されたこと及び第五十五条の三第一項の規定による出国命令により出国したことのないもの 退去した日から五年
ハ 第二十四条各号(第四号オからヨまで及び第四号の三を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者(ロに掲げる者を除く。)退去した日から十年
ニ 第五十五条の三第一項の規定による出国命令により出国した者 出国した日から一年 九の二 別表第一の上欄の在留資格をもつて本邦に在留している間に刑法 (明治四十年法律第四十五号)第二編第十二章 、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条 又は第二百六十一条 に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和五年法律第九号)の罪又は特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律 (平成十五年法律第六十五号)第十五条 若しくは第十六条の罪により懲役又は禁錮に処する判決の宣告を受けた者で、その後出国して本邦外にある間にその判決が確定し、確定の日から五年を経過していないもの
十 第二十四条第四号オからヨまでのいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者
十一 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入している者
十二 次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又はこれと密接な関係を有する者 イ 公務員であるという理由により、公務員に暴行を加え、又は公務員を殺傷することを勧奨する政党その他の団体
ロ 公共の施設を不法に損傷し、又は破壊することを勧奨する政党その他の団体
ハ 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又は妨げるような争議行為を勧奨する政党その他の団体
十三 第十一号又は前号に規定する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成し、頒布し、又は展示することを企てる者 十四 前各号に掲げる者を除くほか、法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
中でも九のイ~ニまでに不法滞在等に関する入国拒否期間が明確に規定されており、退去強制された者が過去に退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことが無い場合には上陸拒否期間は5年間となります。一方、過去に退去強制を受けたり出国命令を受けたことのある者の上陸拒否期間は10年間となります。ただし、平成16年度に新設された出国命令制度を利用して出国した者の上陸拒否期間は1年間となります。
国際結婚にともなう在留特別許可を希望した多くの場合では日本人との婚姻が既に成立しており、上陸拒否期間が適用される間は、結果として家族や夫婦が2国間に別れて生活することになります。万が一にも、日本での在留特別許可が許可されずに退去強制となると家族にとっては非常につらい状況になってしまうのが現実です。
しかも、在留資格認定証明書を発行するかどうかは入国拒否期間とは全く別の問題であるため、仮に退去強制された時から入国拒否期間である5年(または10年)が経過しても、必ず在留資格認定証明書が交付されるとは限りません。そのうえ、申請を行えば過去に退去強制された事実は必ず明らかになるので、入国管理局の審査も慎重となる場合が多く、特に氏名やパスポートの偽装による不法入国や偽名での婚姻手続きなど、過去に日本での滞在中に法令違反がある場合には、在留資格認定証明書の取得は非常に困難になります。
このようなケースでは、退去強制後にどのような形で夫婦としての実態が継続されたかがポイントとなります。退去強制後にお互いの交流が全く認められない場合などでは、そもそも日本滞在時から夫婦としての実態があったのかが疑問視されるでしょう。また、日本人が定期的に配偶者の母国を訪れたり、生活費を毎月送金するなどの行為が認められれば在留資格取得の可能性は高まることが多いようですが、いずれにせよ過去の違反内容と今回の入国目的とを慎重に比較検討した上で審査されこととなります。その点においては、配偶者との間に日本国籍の子が出生している場合についても同様であり、過去の入管法違反の度合いによっては何度申請を行っても不交付と言う結果になる場合もあり得ます。
このように在留特別許可が得られずに退去強制となった場合には、再び家族が日本で生活をするために多大な努力が必要になりますが、法務大臣が特別に事情を認めた場合には、入国拒否期間などの上陸拒否事由に該当していても特例として在留資格認定証明書が交付されるなどして、上陸特別許可として日本への入国が認められる場合があります。これは入管法第十ニ条の三に記載があります。 (法務大臣の裁決の特例)
第十二条 法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該外国人が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の上陸を特別に許可することができる。
一 再入国の許可を受けているとき。
二 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に入つたものであるとき。
三 その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき。
2 前項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。
これは外国人が上陸拒否事由に該当する場合でも、その事由が重大なものでなく、法務大臣が上陸を特別に許可すべき事情があると認める場合を意味します。ただし、この上陸特別許可も在留特別許可と同様に法務大臣の自由裁量とされており、申請をすれば必ずもらえるものではありません。上陸特別許可の明確な判定基準は明らかにされておらず、上陸を許可すべき事情の有無についても法務大臣の裁量にゆだねられています。ただし、上陸拒否の事由が重大なものではなく、日本国籍の配偶者や子が日本にいる場合などに許可される場合が多いようです。このようなケースでは、退去強制後に2国間に別れた夫婦などが、渡航歴、金銭のやり取り、生活状況などを含めてどのような交流をしていたかが重要になると思われます。